A子が目覚めると、そこは病室だった。
ぼうっとする頭で状況を把握する。
酸素マスク、鼻から胃へ通されたカテーテル、両腕から伸びる点滴の管、隣では機械が心電図を刻んでいる。
どうやら自分は全身にひどい怪我をしているようだった。
麻酔でも効いているのか、痛みはないがひどく体が重く、眠い。
「気がついたのね!」
そばに座ったまま寝ていた母親が目を覚まし、安堵で涙を溢れさせた。
母に呼ばれて父と医師と看護婦が部屋に入ってくる。
具合を聞かれ、検査が終了すると、A子は両親に経緯を聞いた。
家族4人で車に乗り、田舎へ向かう山道の途中。
センターラインをオーバーしてきた大型トラックを避けようとハンドルを切ったが、車はガードレールを突き破って谷へ転落したのだと言う。
両親はほぼ無傷だったが、後部座席に乗っていたA子と、弟のB男が…
「そういえば、B男は…?」
病室は個室で、弟の姿は見えない。
A子の言葉にわっと泣き出した母を父が支え、嗚咽を漏らした。
A子はそれ以上は恐ろしくて聞けなかった。
深夜、何かの物音で目が覚めた。
ドアの向こうからか細い声が聞こえる。
まるで、どこか遠いところから呼んでいるような…
…ちゃ……お……ちゃん……おねえ…ちゃ…ん…
B男の声だ!
A子は予備ベッドで眠る両親を起こした。
声に気づくと、両親はA子を背後にかばい、ドアを睨みつけた。
…おね…ちゃん……おねえ、ちゃん…
「B男は…もう、いない」
「お願い、A子まで連れて行かないで…」
恐怖と憐憫で、A子の心は潰れそうだった。
「B男、B男…あなたは…もう……死んだの、よ…」
嗚咽まじりに、A子はドアに向かって話しかけた。
すると、
「おねえちゃん、そっちへ行っちゃダメだッ!
死んだのはお父さんとお母さんだよ!!」
一瞬、病室内の空気が凍りついた。
弟が何を言ったのか、聞こえてはいたがすぐに理解できなかった。
暗雲のように湧き上がる疑惑と不安。
A子は恐る恐る、視線をドアから父母の背中に移した。
凍った時間が動き出す。
ゆっくりと振り返った両親の姿は、血まみれだった。
A子が目覚めると、そこは病室だった。
夢、だったのだろうか…
「気がついたんだね、おねえちゃん!」
そばに座ったまま寝ていた弟が目を覚まし、安堵で涙を溢れさせた。
弟に呼ばれて医師と看護婦が部屋に入ってくる。
A子は混乱した頭で両親のことを訪ねた。
「残念ですが…」と、沈痛な面持ちで医者が告げた。
即死、だった。
ネットでよく見かける話。
前回の話とは逆で、途中まで「死人が迷って現れた」と見せかけておいて実は…というオチ。
シチュエーションは家族だったり、2組のカップルだったり、友達同士だったりしますが、内容はどれもほぼ同じです。
いっしょに逝こう…:★★★☆☆