女友達のAが千葉に住んでいた時の話。
築は古いが2DKで格安のアパートに引っ越した。
大家は塀を隔てた隣の戸建てに住んでいる、穏やかで耳の遠い老婆だ。
”いい物件だったかな” との彼女の安心は、深夜二時に打ち破られる事になる。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!×××ヤリてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突然の絶叫が夜の静寂を破る。勿論、彼女は飛び起きた。
どうやら2階の住人が、窓を開けて叫んでいるらしい。
引っ越しの挨拶をした時は、おとなしそうな痩せた男だったのだが。
ただ、真夜中にこれだけの大声で叫んでいるにもかかわらず、誰一人として彼に苦情を言う者はいない。
一人暮らしの女性であるAも、直接苦情を言いに行くのははばかられた。
酒でも飲んでの事ならともかく、もしかしたら”真性”かもしれないのだ。
Aはその日だけは穏便にやり過ごそうと考えた。
しかし、上の住人の異常行動が収まることはなかった。
壁の薄いアパートである。上の住人が帰ってくるのは音ですぐにわかる。
彼は部屋に入るなり…壁が薄いとはいえハッキリ聞こえる声で、誰も居ないであろう部屋の中で独り言を始めるのだ。
「あああ…Mさん、好きだ…結婚してください…」
「ちくしょう…あいつが、あいつが居なければ…」
「ひぃぃぃ…俺が、俺が悪いんじゃない…」
「あいつが全部悪いんだ、あいつが死ねば…!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ」
そして突然思い立ったように、
「Mさん、結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
などと窓を開けて絶叫するのだ。
”まずい、真性だ。”
Aは青ざめた。
大家づてで苦情を言おうにも、耳の悪い大家に何を話しても聞き取ってもらえない。
Aは手紙を書いて大家宅に投函した。
すると、程なくして男のところに大家が訪れたが、男は「すいません、酒に酔って大声を出したかもしれません」などと、しれっと対応していた。
”嘘を吐け!毎日家に戻るなり深夜までやってるじゃない!”
それでもAは、これで彼が少しは落ち着くのを期待していた。
が、それは甘かった。男の奇行は続いたのだ。
時には警察が呼ばれたが、それでも男は同じようにシラを切り通した。
また、男は数ヶ月後には驚くほど太って痩せていた頃の面影などまったく失せ、別人にしか見えなくなっていったと言う。
結局、Aはそのアパートを引き払ったのだった。
教訓:安い物件には裏がある。
前ブログより再録。
2DK激安家賃・真性付き:★★☆☆☆